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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

と、その石を右手が受け取り、取った時には投げていた。そうして投げた次の瞬間には、左手に握っていた送り石を、すでに右手が受け取っていた。するともうそれも投げられていた。最初の石の届かないうちに、二番目の石が宙を飛び二番目の石が飛んでいるうちに、三番目四番目の石ツブテが、次から次と投げられた。

石は一本の棒となって、周作目掛けて飛んで行った。自慢するだけの値打ちのある、実に見事な放れ業であった。

しかし一方それに対する、周作の態度に至っては、子供に向かう大人といおうか、まことに悠然たるものであって、ただ端然と正面を向き、突き出した鉄扇を手の先で、右と左へ動かすばかり、微動をさえもしなかった。

カチカチと鉄扇へさわる音、トントンと板の間へ落ちる音、それが幾秒か続いたらしい。

「もういけねえ。元が切れた」

甚内の叫ぶ声がした。

周作は微笑を浮かべたが、

「どうだ、甚内、少しは解ったか」

「一つぐらい中りはしませんかね?」

「道場は譲れぬよ、気の毒だがな」

「へえ、さようでございますかね」

「こっちへこい。いうことがある」

元の座敷へ戻って来た。

「さて甚内」と改まり、「思ったよりも立派な業だ。