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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「しゃくやくの根分けもせずばならず」「喘息の手当もせずばならず」「アッハハハ、これはぶち壊しだ。もっともそういえば、しもやけあかぎれの、予防もせずばなりますまいよ」

「いよいよもって下がりましたな。下がったついでに食い物の詮議だ。ぼらにかれいにあさりなどが、そろそろしゅんにはいりましたな。鳩飯などは最もおつで」「ところが私は野菜党でな、うどにくわいにうぐいすなときたら、それこそ何よりの好物でござるよ。さわらびときたら眼がありませんな」「さといも。八ツ頭はいかがでござる」「いやはや芋類はいけませんな」「万両、まんさく、水仙花、梅に椿に寒紅梅か、春先の花はようござるな」「そのうち桜が咲き出します」「世間が陽気になりますて」――「そこで泥棒と火事が流行る」

「その泥棒で思い出した。噂に高い鼠小僧、つかまりそうもありませんかな?」ふと主人はこんな事をいった。

「つかまりそうもありませんな」

「彼は一個の義賊というので、お上の方でもお目零しをなされ、つかまえないのではありますまいかな?」

「さようなことはありますまい」客の声には自信があった。「とらえられぬは素早いからでござるよ」