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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

百日百夜をひとりで寝たら、あけの鶏さえ床さびし

浅間山風吹かぬ日はあれど、君を思わぬ時はない

よしや辛かれ身はなかなかに、人の情の憂やつらや

見る目ばかりに浪立ちさわぎ、鳴門船かや阿波で漕ぐ

月を待つ夜は雲さえ立つに、君を待つ夜は冴えかえる

君と我とは木框の糸か、切れて離れてまたむすぶ

山で小柴をしむるが如く、こよいそさまとしめあかす

多くは甚内自作の歌詞で、情緒纏綿率直であるのが、江戸の人気に投じたのであった。

深編笠で二人ながら、スッポリ顔を隠したまま、扇一本で拍子を取り、朗々と唄うその様子は、まさしく大道の芸人であったが、いずくんぞ知らんその懐中に、磨ぎ澄ましたところの釘手裏剣が、数十本蔵してあろうとは。

お船手頭向井将監

赤格子九郎右衛門の本拠を突き止め、何かを入れた封じ箱を、その九郎右衛門に手渡せというのが、碩翁様からの命令であった。

郡上平八は名探偵、すぐに品川から船に乗り出し、日本の海岸をうろつくような、そんなへまはしなかった。

市中の探索から取りかかった。

翌朝早く家を出ると、駕籠を京橋へ走らせた。

「ここでよろしい」

と下り立ったところは、新船松町の辻であった。