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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

米八はいくらか愁眉をひらき、チラリと鏡を覗いてから、次郎吉の方へ膝を向けた。

「まだあるのよ、気になることが」

「文句の多い立おやまさね」次郎吉はちょっとウンザリしたが、「おおせられましょう、お姫様、とこう一つ行くとするか」

「真面目にお聞きよ、心配なんだからね」

「おい、どうするんだ、邪慳だなあ。煙管ならそっちにあるじゃねえか」

「お前さんの煙管でのみたいのさ」

「へん、安手な殺し文句だ」

「でも、まんざらでもないでしょうよ」

「こんどは押し売りと来やがったな。あッ、熱い! なにをしやがる!」

左の頬を抑えたのは、雁首の先をおっつけられたからで。

「いい気味いい気味、セイセイしたよ」

「地震の後はどうせ火事だ。諦めているからどうともしなよ」

ゴロリと次郎吉はあおむけになった。

「節穴の多い天井だなあ。暇にまかせて数えてやるか。七ツ八ツ九ツ十」

「莫迦にしているよ、呆れもしない」

「そのまた莫迦が恋しくて、離れられないというやつさ」

「いい気なものさ、しょってるよ」

「あっ、畜生、五十八もあらあ」

とうとうみんな数えたらしい。

腑に落ちない色々の事

「ほんとにそうだよ」