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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

周作は感心してうなずいた。

「へい、わっちが待ったなし流で、じっと構えておりますと、相手の野郎はいい気になって、ちょくちょく切り込んで参ります。それをわっちは平気の平左で、切らして置くのでございますな。ビクビクもので切って来る太刀が、何んできまることがございましょう。皮を切るか肉にさわるか、とても骨までは達しません。そこがつけ目でございます。そうやって充分引きつけて置いて、いよいよ気合いが充ちた時、それこそ待ったなしでございますな、一撃にぶっ潰すのでございます」忠次はここでニヤリとした。

「お前と立ち合った人間の中、これは恐ろしいと思った者が、一人ぐらいはあったかな?」「へい、一人ございました」「おおそうか、それは誰だな?」「そこにいらっしゃる平手様で」「ナニ平手? ふうん、そうか」「何んと申したらよろしいやら、細い鋭い針のようなものが、遠い所に立っている。とてもそこまでは手が届かない。こんな塩梅に思われました。技芸の恐ろしさをその時初めて、感じましてございますよ」「しかし試合はお前の勝ちだ」「それはさようかも知れませぬ。わっちの構えは技芸だけでは、破られるものではございません」