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るそんのつぼ
呂宋の壺
久生 十蘭
「オール讀物」1957(昭和32)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,375 字 · 36 页
「どんなあんばいだ。早う、ぬかせ」
物見台のマラッカ人は、
「たいへんだ」と叫び、それから、「向うの物見台にも人が上って、筒眼鏡でこちらを見ている」と報告した。
李旦という博多生れの福建人は、こんなことには馴れきっているふうで、急ぎもせずにゆっくりと舵場へ上って行った。
「庄兵衛どん、向うの船足はどうあるかい。逃げきれるとじゃろうか」
庄兵衛は、手庇をして向うの船足を計ってから、
「たいしたことはありますめえが、早駆けにしますか」
そういうと、一番かんぬきの帆係に、総帆あげろと命令をくだした。
サンチャゴが勢よく走りだすと、向うの黒船もにわかに船足を早め、海の上を電光形に間切りながら、サンチャゴのほうへ突っかけてくる。帆を撓め、船足を隠していたとしか思えないような鮮かな追撃ぶりであった。
「えらく足が出だした。下手をすると追いつかるるたい」
と李旦がいった。
「弾箱を出しておきましたけん、いッちょ射とうじゃにゃあですか」
新九郎が気負ったような顔でいうと、李旦は大きくうなずいてみせた。
「ぬしゃ、大筒ば射ちきるか。射てるなら射って見さっし」
新九郎はスマトラ人の水主を呼びあつめると、前敷の大筒のところへ走って行って弾丸込めにかかったが、生憎と、弾丸が筒口より大きくて、この急場には間にあわなかった。