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わしゅうちめいだん
和州地名談
柳田 国男
「奈良叢記」駸々堂書店、1942(昭和17)年1月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,320 字 · 14 页
近来は蛇も悠長でなくなり、たまたま一匹だけが皿を巻いているのを見るばかりだが、話に残っているのは大小幾つもの蛇が、順々に輪になっていることがあるといい、それを見たものが勇敢に手をその穴に入れると、底には必ず宝物があるといい、これを得て立身した話がたしか『美少年録』の始めの趣向にもなっていた。江戸の随筆にはこの中から一枚の古銭を得たという実話さえ出ている。少なくとも蛇穴は近世までの一つの話題であり、またおそらくは一種の霊異譚の種でさえあった。土器の製作の根源が蛇の習慣から、暗示を得たというような想像も成り立ち得たかも知れない。これがやや事を好んだ地名の文字になっているお蔭に、昭和の我々までがこの前代生活の一端に触れ得たのだから、珍重しなければならぬ無形の遺物である。私の地名談は竜頭蛇尾、長いばかりでいっこうだらしがない。蛇のサラギのごとく崩れてしまわずば幸いである。
(『奈良叢記』昭和十七年一月)