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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页

青空文庫

これ等のものなき人の世の寂しさは一度文化に浴したわれわれの能く堪え得べき所であろうか。

われわれの生活は俄に亜米利加人のそれと密接な関係を生ずるようになった。それは今後二十幾年続くべき筈だと云う。戦争前銀座丸の内あたりの光景は、或人の眼には、既に著しく米国風に化せられていた。今後世態人情の転化し行く処の何であるかは、火を見るよりも明であろう。しかし世運は常住するものでない。物極まれば必変転するのは自然の法則である。われわれの子孫が再び古き日本を追想すべき時も来ずには居まい。回顧の資料は書籍に優るものはない。われわれは現在において既に民族文化の宝物たるべき書物の大半を失った。将来これを得ることは至難であるかも知れない。けれども難事は難事であるが故に、心あるものには却て一層の精力を奮起させる基になるであろう。奇を猟り稀を求めんとする欲望は生命の力のあるかぎり人の心より消え尽すものではない。われわれが江戸の文物を追慕したように、われわれの子孫もまた彼等には最も近かった現代を回顧せずにはいないであろう。半世紀のむかしとなった明治の世を語るのも、また戦敗の今日を記録に留めるのも、われわれ現代人の為すべき任務の一つでない事はあるまい。