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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页

青空文庫

噂ばなし

戦死したと思われていた出征者が停戦の後生きて還って来た話は、珍しくないほど随分あるらしい。中には既に再縁してしまったその妻が、先夫の生還したのに会って困っている話さえ語りつたえられている。

そういう話を聞いた時、わたくしは直にモーパサンの「還る人」Le Retour と題せられた短篇小説を思起した。テニソンが長篇の詩イノック、アーデンもまた同じような題材を取っていたように記憶している。しかしそれ等はいずれも行衛不明になっていた漁夫が幾星霜を経た後郷里へ還って来た話で、戦争の事ではない。西鶴の浮世双紙「ふところ硯」にも八文字屋のものにも似たような話が見えている。旅に出たなり幾年となく帰って来ないので、夫は死んだものと思いあきらめている人妻のもとへ、夫にそっくりの別の男が現れて亭主になるという話である。九州や四国の辺境にあった話が、船の行来と共に大坂の町まで語りつたえられたのを、作者が聞いて筆にしたのであろう。

わたくしが或町にいた時、或人がわたくしに語ったのは、戦死した兄の妻を、弟が娶っていたところへ、突然兄がかえって来たという話であった。兄弟とも理髪師である。