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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页
心づくし
終戦後間もなく組織されたB劇団に、踊りもするし、歌もうたうし、芝居もするというような種類の女優が五、六人いた。
その中の二人は他の三、四人よりも年が上で、いずれも二十五、六。前々からきまった男を持っていた。一人は年も四十を越した一座の興行師の妾で、三ツになる子供がある。他の一人は銀座の或ダンスホールでクラリネットを吹いている音楽師を恋人にしていたが、あとの三、四人は年も二十になるかならず、手入らずの生娘だかどうだか、それは分らないが、兎に角B劇団開演の当初、二、三ヶ月ばかりの間は、楽屋の噂になるような事はしていなかった。
一座は浅草公園を打上げた後、近県の町々を一めぐり興行して東京にかえり新宿の或映画館で蓋を明けたが、その時には、早くも三人の中の一人は仲間の或男優と人目かまわず巫女戯るような仲になっていたし、また他の一人は次の興行の稽古中、一座の若い演出家先生と何やら背景のかげなどでひそひそはなしをはじめると云う有様。初に変らず娘のままで居残ったのは唯た一人になった。それは芸名を春川千代子といって年は十九。戦争中も幸に焼けなかった葛飾区高砂町の荒物屋の娘である。