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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页
寝返りをするたびたび自分では思出そうとも思っていないさまざまな事が、秩序なく心の中に浮んでくるのであった。
老人は二十五の春、或専門学校を卒業して或会社に雇われたが、三年の後会社の破産に遇い、一時しのぎのつもりで或病院の会計に雇われて見たのであるが、病院は丁度建物を増築する盛況に向っていた時で、給料も会社員よりも多額であるばかりか、何かにつけて目立たない余徳もあるところから、そのまま腰を据えたようなわけであった。その時病院に石田浜子という附添看護婦がいて、石田は埼玉県の或町からその時代の風潮に感化された若い女の例に漏れず、都会の繁華にあこがれ東京へ出て来て、初めは二、三ヶ処山の手の屋敷へ女中奉公をして歩いた後X病院の看護婦に住込んだ。さして目に立つほどの容貌ではないが、二十を越したばかりの艶しさに、大学を出たばかりの薬局の助手が忽ち誘惑しようとしたのを、臼木が窺い知ってそれとなく注意をしたのが縁のはじまりであった。
石田は一時埼玉の生家へかえり、半年ほどして再び東京へ出て来て、他の病院に住込むと間もなく、臼木の許へ手紙を出した。二人の感情はこれから次第に親しくなり、やがて結婚のはなしが成立った。