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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页

青空文庫

その当座、季子は落ちつかないわくわくした心持で、茶ぶ台に坐るたびたび姉や兄の様子ばかり気にしていたが、その話は今だに二人の口からは言出されない。季子は自分の方から切出して見ようかと思ったこともあるが、気まりが悪いまま、それもいつか、それなりに、季子は日のたつと共に自分の方でも忘れるともなく忘れてしまった。

見廻すと、あたりはいつの間にか大分静になっている。荷物を枕にぐうぐう眠っていた職工もどこへか行ってしまい、下駄をはいたりぬいだり足をぶらぶらさせていた娘の立去った跡には、子供をおぶった女が腰をかけて居眠りをしている。

その時季子は烟草の匂につれてその烟が横顔に流れかかるのに心づき、何心なく見返ると、

「京成電車の駅は遠いんでしょうか。」ときくものがある。

いつの間にか自分の隣りに、背広に鳥打帽を冠った年は二十四、五、子供らしい面立の残っている一人の男が腰をかけていた。しかし季子は自分に話しかけたのではないと思って、黙っていると、

「京成の市川駅へはどっちへ行ったらいいんでしょう。」

季子はスマートな様子に似ず妙な事をきく人だと思いながら、

「京成電車にはそんな駅はありません。