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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页

青空文庫

買出し

船橋と野田との間を往復している総武鉄道の支線電車は、米や薩摩芋の買出をする人より外にはあまり乗るものがないので、誰言うとなく買出電車と呼ばれている。車は大抵二、三輛つながれているが、窓には一枚の硝子もなく出入口の戸には古板が打付けてあるばかりなので、朽廃した貨車のようにも見られる。板張の腰掛もあたり前の身なりをしていては腰のかけようもないほど壊れたり汚れたりしている。一日にわずか三、四回。昼の中しか運転されないので、いつも雑沓する車内の光景は曇った暗い日など、どれが荷物で、どれが人だか見分けのつかないほど暗淡としている。

この間中、利根川の汎濫したため埼玉栃木の方面のみならず、東京市川の間さえ二、三日交通が途絶えていたので、線路の修復と共に、この買出電車の雑沓はいつもよりまた一層激しくなっていた或日の朝も十時頃である。列車が間もなく船橋の駅へ着こうという二ツ三ツ手前の駅へ来かかるころ、誰が言出したともなく船橋の駅には巡査や刑事が張込んでいて、持ち物を調べるという警告が電光の如く買出し連中の間に伝えられた。

いずれも今朝方、夜明の一番列車で出て来て、思い思いに知合いの農家をたずね歩き、買出した物を背負って、昼頃には逸早く東京へ戻り、その日の商いをしようという連中である。