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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页
婆さんは後から来て休みもせずどんどん先へと歩いて行く人達の後姿をぼんやり見送っていたが、すぐには立上ろうともしなかった。
するとまた後から歩いて来た、それは四十あまりのかみさんが、電車の中での知合らしく、婆さんの顔を見て、
「おや、おばさん、大抵じゃないね。わたしも一休みしようか。」
「もう何時だろうね。」と婆さんは眩しそうに秋晴の日脚を眺めた。
「追ッつけもうお午でしょう。わるくするとこの塩梅じゃ、今日はあふれだね。」
「線路づたいに船橋へ行った方がよかったかも知れないね。」
「わたしゃさっぱり道がわからないんだよ。おばさんは知っていなさるのかね。」
「知っているような気もするんだよ。知っていたって、たった一度隣組の人と一緒に来たんだから、どこがどうだか、かいもく分りゃアしない。久しい前のことさ。戦争にゃなっていたが、まだ空襲にゃならなかった時分さ。」
「戦争になってから、もう十年だね。戦争が終ってもこの様子じゃ、行先はどうなるんだろう。買出しも今日みたような目にあうと全く楽じゃないからね。」
「全くさ。お前さんなんぞがそんな事を言ってたら、わたしなんぞこの年になっちゃ、どうしていいか分りゃアしない。