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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页

青空文庫

人の身の上ほどわからないものはないと、つくづくそう思うんだよ。」

「おや、正午じゃないかね。あのサイレンは。」とおかみさんはさして遠くもないらしいサイレンが異った方角から一度に鳴出すのを聞きつけた。婆さんは一向頓着しない様子で、頬冠の手拭を取って額の汗をふきながら、見れば一歩二歩おくれながら歩いている。

「そこいらで仕度をしようかね。いくら急いだって歩けるだけしきゃ歩けないからね。」

おかみさんは道端に茂っている椿の大木の下に破れた小さな辻堂の立っているのを見て、その砌に背中の物をおろした。あちこちで頻に※(「奚+隹」、第3水準1-93-66)が鳴いている。婆さんもその傍に風呂敷包をおろしたが、何もせず、かみさんが握飯の包を解くのを見ながら黙っている。

「おばさん、どうした。」

「わたしはまだいいよ。」

「そう。それァわるかったね。わたしゃ食いしんぼうだからね。」

「かまわずにおやんなさい。わたしゃ休んでるから。」

おかみさんは弁当の包を解き大きな握飯を両手に持ち側目もふらず貪り初めたが、婆さんは身を折曲げ蹲踞んだ膝を両手に抱込んだまま黙っているのに気がつき、