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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页

青空文庫

谷崎君が初めて文壇に現れたのは、明治四十三、四年であった。歳月を閲すること四十余年である。その間に制作せられた諸名篇の中、その客観的手法を用いて目覚ましき成功を示したもの、この「細雪」に若くはない。

「細雪」の篇中、神戸市水害の状況と、嵐山看花の一日を述べた一節とは、言文一致を以てした描写の文の模範として、永遠に尊ばれべきものであろう。わたくしは鴎外先生の蘭軒伝の他に、その趣を異にした言文一致体の妙文を得たことを喜ばなければならない。

「細雪」は昭和年代の関西における一旧家族の渾然たる歴史である。わたくしは今日まで東京以外の生活については全く知るところがない。篇中人物の行動と感情と、また風土気候に関しても、初めて知るを得たものが少くない。「細雪」閲読の興味は宛らダヌンチオの小説を読んで伊太利の風物を想い見るが如くである。

「細雪」上中の二巻を通読して、わたくしの得た印象を述べると、教養ある関西人の生活の裏面、その感情の根柢には今日もなおゆるやかなる平安朝時代の気味合の湮滅せずに存在している事である。この一事は東京に成長して他郷を知らないわたくしには非常なる興味を催さしめた。