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うそアつかねえ

嘘アつかねえ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1950(昭和25)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,523 字 · 24 页

青空文庫

などと云うことがある。おそらくそんな経験が幾たびかあったのだろう、なにかをじっとみとおしているような云いかたで、信吉は急に寒気のするような気持になったこともあった。……いちどなどは人を斬った侍がはいって来た。残暑の頃で、もう東の空が明るみだす時刻だったが、その侍は足音もさせずにぬっとはいって来て、酒を冷のまま湯呑へ注がせ、続けさまに三杯も呷った。こまかい白飛絣の帷子に絽の夏羽折を着ていた、痩せた小柄な躯つきで、眼が血ばしっていた。

「くだらないな、実にくだらない」四杯めを飲みながらそんなことを呟いた、「――世の中も人間も、生きていることも、……みんなくだらぬたわけたことだ」

侍はその血ばしった眼で、ときどき信吉のほうを見た。警戒するのでもなく相手を求めるのでもない。信吉を見はするが実は信吉を見るのではなく、心はまったくべつのほうにあるという眼つきだった。

「ばかなものだ、ちえッ、ばかなものだ」

そんな呟きも殆んど無意識だったろう、酒を五杯飲むと、途方もないほど多額な金を置いて、来たときのように足音もさせずに出ていった。

「ふられて来たというかたちだね」