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とらわれびと

囚われ人

豊島 与志雄

「群像」1952(昭和27)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,109 字 · 35 页

青空文庫

君はどこにも殆んど顔出ししなくなったばかりか、誰に逢っても、ただにやりと気味悪く頬笑むだけで、殆んど話らしい話もしないというじゃないか。勿論、口を利きたくない時は利かなくてもいいが、君の様子はちっと変梃だと、皆が言っている。然しもう、とやかく言うのは止そう。まあせいぜい、顔を地面に向けて、僕たちに背を向けるのもよかろう。眼を足元に注いで、青空を見ないのもよかろう。そして君のうちにあるその深淵に、その空洞に、君自身すっぽりと呑み込まれるのもよかろう。

――おい、正夫君、僕たちにばかり饒舌らせないで、何とか言ってみたらどうだい。そのくせ、自分では退屈してるじゃないか。いったい、君は一日中何をしてるんだ。退屈ばかりしてるのか。時間をどんな風につぶしてるんだ。何とか言ってみないか。

議一は拳固でやたらに卓を叩きつける。正夫はじっと頬杖をついたままでいる。議一はなお卓を叩き続ける。

間。

議一の腕を、横合から一本の手が押え止める。そして手の主は、すっくと立ち上る。胴体が短く、足が長く、極端に痩せ細った男で、体にきっちり合った服を着てるので、火箸のようにひょろ長く見える。