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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

――こんどの猪狩りはその「倹約」と「尚武」の主旨で行われるもので、実戦そのままの規模と内容をもっていた。

主税介にはその当日が気懸りであった。

彼は馬廻りで抜刀隊の指揮を命ぜられ、すでに下演習を終っていたが、下演習の期間ちゅう、馬廻りの内部に険悪な空気があり、それが猪狩りの日に暴発する恐れのあるのを感じた。――問題は徒士組との長い確執で、これまでにもしばしば小さい衝突があった。事の起こりは古く、その原因も(いろいろ説はあるが)いまでは正確にはわかっていない。いってみれば漠然とした、だが根深く強い反感である。原因がはっきりしていれば解決の法もあるが、まるで性格の違いからどうしても融和しない個人関係というに似たこの確執は始末に困るものであった。

――こんなに長いあいだ一般の評判になっているのだから、却って大きな衝突は起こらないだろう。

そう云う人たちもあったが、現に七年ぶりで「猪狩り」が行われると発表され、その下演習が始まるとともに、狩場で、狩場で、――という囁きがしきりと耳に入った。それには一つの動機があった。去年の十月はじめ、馬廻りの羽形与茂八と、徒士組の荒木織馬とが喧嘩をして、与茂八がしたたかにやられた。