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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

三

当時、岡崎には藩の道場のほかに、通次多仲という者が一刀流を教えていて、徒士組の者は多くその門に学んでいたが、荒木は同門でも指折りの達者であった。馬廻りには「精明館」の門人が多いので、しぜん両者が対立するようなかたちになり、そのときもひと騒動起こりそうになった。

――狩場で、狩場で。

こういう囁きは、与茂八の件を動機として、長いあいだくすぶっていたものが、堰を切るところまで来たといえるのである。主税介は下演習の終った日に、最も尖鋭な者たちを集めて戒告した。

――御狩場は戦場と同様である、殿の御馬前で私怨の争いなど起こせば軍律干犯になる、どんなに堪忍ならぬことがあっても、御狩場では断じて事を起こしてはならない。

かれらは了承した。主税介は誓いを求め、かれらはそれを誓った。

三

狩場で事を起こさないことをかれらが誓ったのは、主税介の戒告に服したのではなく、いざとなれば主税介が共に立って徒士組と対決する人間だということを信じていたからであった。

「持場を変えてもらおう」主税介は手を休めながら呟いた、「徒士組から仕掛けてくるおそれがあるし、気が立っているから万一ということもある、――そうだ、持場を変えてもらうほうが安全だ」