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ちはゆたかなり

地は饒なり

宮本 百合子

「中央公論」1918(大正7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,874 字 · 57 页

青空文庫

彼女は、こういう意味の言葉を、書いた。そして、それを机の上に拡げて、今まで決して聞かなかったはずのない「偉い人」を考え、探し始めたのであった。

偉い人、彼女は度々その響を聞いたことはある。偉い人におなりなさい。立派な人にならなければいけません。

けれども、今、こうやって一体どういうのかと自分の頭に訊いてみると、脳髄はまごつきながら、やっぱり小さい声で、

一体どういうのだか……

とつぶやき返すばかりである。

もちろん彼女は、正行の母、橘姫などが感歎すべき婦人として、小学校にいたときから屡々話されたのは覚えてい、知っている。

けれども、彼女は自分とその人々との時代を隔てている「時」をとりのけにして考えることは出来なかった。

あの時代、あのときとの間に幾百年の過ぎている今、何んでも変化し、進んでいる今と、今から先きのもっともっと違うはずの幾十年かの間に、「あのときのあの事件」が再び起って、自分をそれと同様の境遇に置くだろうことは、考えてもみられなかった。

それ故、彼女の理論は、生涯のすべての境遇の変化にも、時代の進行にもなお動かされずに、自分の一生を貫くべき、「ほんとの人格の力」