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ちはゆたかなり

地は饒なり

宮本 百合子

「中央公論」1918(大正7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,874 字 · 57 页

青空文庫

そして、彼女の心附かないうちに、生活の律動は、読み物の影響と、或る程度まで養われた道徳意識の影響と、今まで続いて来た生活の形式の反動との力を集めて或る次の一点へ徐々に彼女を動かしていた。

自分ばかり凝視していた彼女の眼は、そろそろと自分より不幸な、より惨めな、そしてそれ等に対して、自分が無関心であったのを恥かしく思わずにはいられない一方面に転ぜられ始めたのである。

不当な圧迫や、服従の強制に対して、絶えず不満を感じていた彼女が、自分よりもっともっとそれ等の堪えがたいあらゆることに堪えて、物質的にも精神的にも劣者の位置に甘んじていなければならない者に心附いたとき、どのくらいの同情に打たれたことであろう。

そして、それ等の気の毒な人々に、自分も知らず識らず圧迫を加え、強制を加えて、まるで知らないでいたことにいかほどの悔を感じたことであったろう。

自分は仕合わせに、不正だと思ったことには、どこまでも対抗して行く力を与えられている。その反抗に対して機嫌を損じる者があれば、いくらあっても、自分はちっとも恐ろしくはないと思っていられる。けれども……。彼女はほんとに興奮せずにはいられなかった。