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ちはゆたかなり

地は饒なり

宮本 百合子

「中央公論」1918(大正7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,874 字 · 57 页

青空文庫

生命を権利も、それがたとい法律では保護され、飽くまで主張し得べく制定されてはいても、実際の生活においては、物質的、精神的により豊かな者、力強い者に、殆ど無条件で蹂躙され、屈服させられなければならない人々が、到るところに満ちているではないか。

卑怯な、卑劣な弱い者酷めが、公然と行われているのに、自分はどうして、平気でその仲間入りをしていたのだろう。

彼等も人であり、自分も人であるのに、一方が一方を虐げるのが、どうして正しいことだといえよう。

彼女は、忘られない印象を自分の心の上に遺して行方も分らず去った、或る一人の労働者の姿を想い浮べた。可哀そうだと思いながら、記憶から薄らいでいた、一人の少年を思い浮べた。

それ等の皆、泣いていた人々、自分が悲哀に打たれ、泣くことさえ憚るようにしてひそやかに啜泣いていた人々。

慰めてのない彼等の苦痛、軽ぜられていた生命の歎息が、無限の哀愁のうちに、ひたひたと迫って来るのを、彼女は感じずにはいられなかった。

破れた、穢い穢い上衣の肩の上に垂れて、激しく痙攣していたあの青い顔、深い溜息。

彼女は、記憶の中のその人に向って、