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かわる

変る

豊島 与志雄

「知性」1942(昭和17)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,972 字 · 14 页

青空文庫

彼はその気持のなかから、浮び上るようにして、春枝の姿を眺めた。割烹着の細かな花模様の赤と黄と青とが、ちかちかと眼を刺激した。彼は眉をしかめて酒を飲んだ。

客はみな黙っていた。ふしぎなほど黙っていた。大五郎も黙っていた。

奥に通ずる木の扉を静かに開いて、中年の男がはいって来た。短い口髭をはやし、和服姿の肩がまるく、でっぷり肥っている。それが村井だと、水の中のような静けさのなかで、大五郎は気付いたのだが、やはりじっとしていた。

村井は真直に大五郎の方へやってきた。

「やあ、いらっしゃい。」

大五郎は椅子から立上った。

「こちらがいいでしょう。」

村井に導かれるまま、大五郎は畳の上の隅の餉台に就いた。ここもまた、呑み台のまわりの土間に並べた椅子席と、右手と入口のわきとに畳敷きの坐席がある。大五郎は馬革の靴を大事に上り框の下にそろえた。壁には、その半分ほど、ばかに大きな太平洋中心の地図が、鋲でとめてあった。

春枝が、大五郎の銚子や小皿物を運んできた。村井はちょっと奥へはいって、暫くしてまた出てきた。

「今日は、私がお返しをしなければならない。といって、何もありませんが、一杯飲んで下さい。