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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
原民喜『夏の花・心願の国』。同一底本的分册已合并为一书。收入:夏の花、苦しく美しき夏、秋日記、冬日記、美しき死の岸に、死のなかの風景、火の唇、壊滅の序曲、廃墟から、鎮魂歌、永遠のみどり。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 152,816 字 · 310 页
……正三がぼんやりその文字に見とれていると、清二はくるりと廻転椅子を消えのこった煉炭ストーブの方へ向けながら、「タバコやろうか」と、机の抽匣から古びた鵬翼の袋を取出し、それから棚の上のラジオにスイッチを入れるのだった。ラジオは硫黄島の急を告げていた。話はとかく戦争の見とおしになるのであった。清二はぽつんと懐疑的なことを口にしたし、正三ははっきり絶望的な言葉を吐いた。……夜間、警報が出ると、清二は大概、事務所へ駈けつけて来た。警報が出てから五分もたたない頃、表の呼鈴が烈しく鳴る。寝呆け顔の正三が露次の方から、内側の扉を開けると、表には若い女が二人佇んでいる。監視当番の女工員であった。「今晩は」と一人が正三の方へ声をかける。正三は直かに胸を衝かれ、襟を正さねばならぬ気持がするのであった。それから彼が事務室の闇を手探りながら、ラジオに灯りを入れた頃、厚い防空頭巾を被った清二がそわそわやって来る。「誰かいるのか」と清二は灯の方へ声をかけ、椅子に腰を下ろすのだが、すぐにまた立上って工場の方を見て廻った。そうして、警報が出た翌朝も、清二は早くから自転車で出勤した。