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よるのわかば

夜の若葉

宮本 百合子

「婦人朝日」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,072 字 · 24 页

青空文庫

のようなものを吹き込んだ。順助といるとき、桃子は一番単純になった自分を感じ、つるつるしたむき出しの膝っ小僧を二つならべて、それでよろこんで坐ってどんな話でも出来る真摯な気分になるのであった。

去年、桃子が学校を出て、今つとめている貿易会社へ入った夏、防空演習があった。

「私は御免蒙りますよ、どうもこれじゃあね」

蚊帳を吊って多代子が横になってしまったあと、来合わせていた順助に、

「上へ行きましょうか」

桃子が先へ立って二階へあがった。南の空には、暗い屋根屋根越しに青く太くサーチライトの光芒が二条動いて、飛行機の爆音が高く遠いところにきこえている。灯をけしている座敷には、ぼんやりした夏の夜空の明るみがあった。

「このまんまでいい?」

「いいよ」

順助は座蒲団を背中の下に敷いて、ごろりと横になった。桃子は手摺のところへ腰をかけて風にふかれていたが、やがて、

「ああ思い出した、いいものがあるのよ、きょうは」

下へおりて、番茶道具と越後のある町の名物の絹餠をもって来た。

「きょう送って来たばっかりよ。但しみんなたべちまいっこなし」

「亮さん相変らずなのかしら」

下の兄が、そこへ赴任しているのであった。