轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
よるのちょう
夜の蝶
山本 周五郎
「家の光」1954(昭和29)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,345 字 · 21 页
高次てえ人は金なんか盗りゃあしなかった。あのときお店には、盗るような金なんてなかったんだ」
「あれが口癖でしてね」と与平が云った。「酔っぱらうと、いつもあれを云うんですよ」
旅装の客は老人のほうを見た。
「金なんかありゃあしなかった」と老人は続けた。「旦那は相場に手を出してた。お定りの苦しまぎれ、すってんてんに剥がれて、仕切りが眼の前だというのに、金箱には十両と纒まった金もなかった。これがほんとのこった。そのとき金箱には十両の金もなかったんだ。それを知ってるのは、おれがそいつを知ってるのは、旦那がおれに、――これこれだから荷をはたきたいがどうだ、てめえだけに話すんだがと相談して来た。庫の荷をはたいて急場を凌ごう、さもなければ暖簾をおろすよりしようがねえ、こう、うちあけてお云いなすった。恥ずかしくって誰にも云えねえが源太、店にはいま十両と纒まった金もねえんだ……これがほんとのこった、おめえたちは知らねえが、本当のところはそうだったんだ」
老人は泣きだした。
葭簀にとまっていた蝶がはたはたと飛びたち、老人の頭の上をまわってこっちへ来た。そうして旅装の客の肩のあたりで迷っていたが、やがて行燈へいってとまった。