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よるのちょう

夜の蝶

山本 周五郎

「家の光」1954(昭和29)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,345 字 · 21 页

青空文庫

二

「家へお帰んなさい。家でみなさんが心配しているから」こう云って、外へ送り出そうとした。女は与平の手をふり放した。

「そんなことを云ったってきくもんじゃねえ」と六兵衛が云った。「その病気の出ているときには放っとくよりしようがねえんだ。いまにお梅どんが来るだろうから、うっちゃっとくがいい」

「あんまり親切にすると抱きつかれるぜ」勇吉がそう云って笑った。

「だいじょうぶよ、おじさん」女は与平に笑いかけた。「あたし、なんにもしやあしないわ。ただ、この坊やをあの人に見せるだけよ。あたし自分のすることぐらい、わかってるわ。ねえ、ちょっとでいいからあの人に逢わせて」

女は両手を(まるで赤児でも抱いているように)胸のところで輪にし、それをやさしく揺りながら飯台のほうへいった。

「しようがねえなあ」与平は鍋の前へ戻りながら云った。「おめえたち悪くからかっちゃあいけねえぜ。わけがわからなくなってるんだから、そんな病人をからかうのは罪だぜ」

二

「近所の娘さんか」と旅装の客が声をひそめて訊いた。彼は女のほうは見なかった。

「この表の京伝という麻問屋の娘ですよ」と与平が云った。「いつもは温和しいんだが、月の障りの前後になるとおかしくなりましてね。