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よるのちょう
夜の蝶
山本 周五郎
「家の光」1954(昭和29)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,345 字 · 21 页
四
「云うぞ、ほんとのことを云うぞ」酔いつぶれている老人が、また(同じ言を)どなり、こんどはふらふらと顔をあげた。
「云っていいか、ほんとのことを云おうか」と老人はどなった。「おい、おやじ、おれが本当のことを聞かせてやろうか」
「わかってるよ、たくさんだ。それよりおめえ、もう帰らねえと迎えに来られるぜ」与平はこう云いながら、空いた盆を持って鍋の前へ戻った。老人は不安定に半身を起し、片方の手をふらふらと振って、みじめな、泣くような声をあげた。
四
「どういう人だ」と旅装の客が訊いた。
「もと京伝の店にいたんだそうです」と六兵衛が答えた。「古くから荷方をしていたそうですが、酒癖が悪いため追出されて、いまは娘の嫁入り先の世話になってるんですが」
「あれが」と旅装の客が云った。「あれが荷方の源さん」
「知っておいでですか」
「いや」旅装の客はどきっとし、苦笑しながら盃を取った。「いや、とんでもない。いまこの親方が向うで、源さんとか云ってたもんだから」
「おらあ云ってやる、ほんとのことを云ってやる」と老人が向うでどなった。「高次てえ人はなんにも盗りゃあしねえ。みんな知らねえんだ。