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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

私は悪い方面のことを一つもまだ聞かないが、日本でもっとも両者の間の善く廻っているのは、この山形県下だということも、警察の人から聞いたことがある。

十月――日

百合根の味噌汁がつづいて美味い。しかし、今日もまた大雨だ。昨日まで天候の模様を見ていた農家のものらも、もう躊躇の余地はない。今は人より稲を救わねばならぬ。

そこへ米の供出方法が定められた。農家の議論はまた昂って来たようだ。去年は、定められた供出量の努力に対して、それを保証する意味の保証金が農家に下った。それが今年は、農家の努力に対してではなく、生産量に対して生産奨励金が下るという。どこがそれでは違うかというと、今年の供出量は去年のようには一定せず、生産量に従って定められるという寸法に変化して来たのである。これは去年に比較して不明なところがあるだけに、含んだ凄味が物をいっていて、睨みの幅が大きく深さがあった。一見、供出するものに同情ある様子ながらも、悪狡く逃げるものは逃がして置き、その後で絞め上げて見せようという肚も見え、なかなか油断のならぬ方法である。

「はい、はい、云うて置くのだな。何んでもかまわぬ。