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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
この家の裏の家では、今日は、私のいる隣組の娘たち全部と、若い嫁たちが集って、持ちよりの品で一日自由に食べくらし、遊び暮す。当番に当っているその家から、賑かに出入する娘らの声がよく聞える。娘たちの娯楽といえばたったそれだけだそうだが、他人目から見ればつまらなそうな遊びながらも、本人にしてみればおそらくこれほど愉快な娯楽はあるまい。厳しい老人たちの眼から離れ、ぺちゃくちゃ喋る話の中には、この村一の美人といわれるせつの新婿の職業は、異様な花を咲かせてさざめき返っていることだろう。
菅井和尚が見えた。この釈迦堂の和尚が見えると、いつも参右衛門は家の中から姿を消す。おかしいほど彼には和尚が苦手らしく、小学校の生徒が先生の姿を見て逃げ出す足と同様にすごく迅い。私はこの和尚から机を貸してもらい、おはぎを貰い、柿を貰い、馬鈴薯を貰った。僧侶くさみの少しもない闊達な老人で、ここから十里あまりへだてた温海という温泉場では、この和尚のことを、ああ、あの名僧かと人はいう。ところが、私の今いるここの村では、僧侶臭のないところが有難味がないと見えて、悪くは云わぬが、にやにやと笑うだけだ。