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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
一つには、一度だけこの店へ、
「まだ、店をひらいているだろうか」
と、心配しながら来てみると、案の定灯がついていて、ほっとした――というよろこびのせいだった。
それというのも、自分の生命を救ってくれた青蛇団に御馳走してやりたかったし、そしてまた、ブルウスカイでのささやかな饗宴が、もしかしたら豹吉の最後の饗宴になってしまうかも知れなかったからだ。
なぜなら、これから雪子を救い出しに行って、そのまま帰って来られないかもわからないのだ。
それだけになお一層、焼跡の中のブルウスカイの灯は、豹吉の人恋しい心をしびれるように甘く、なつかしく、温めた。
「珈琲出来る……?」
扉を押してはいると、そう豹吉はきいて、
「――ああ、じゃ、珈琲と、それから何か……、サンドイッチでも……」
「おビールは……?」
「そうだな」
と、豹吉はちょっと考えた。
最後になるかも知れない饗宴に、ビールでも飲みたいところだった。しかし、いかなる時にも冷たく醒めていたいのが、豹吉の掟だった。何ごとによらず、陶酔したり、われにもあらず昂奮したり、驚いたりすることは、豹吉の掟に反していた。
「――まア、よして置こう」