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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

朝晩はめっきり寒く、部屋には炬燵ができているくらいだ。寿平次は下女がさげて来てくれた行燈を引きよせて、そのかげに道中の日記や矢立てを取り出した。藪原で求めた草鞋が何文、峠の茶屋での休みが何文というようなことまで細かくつけていた。

「寿平次さん、君はそれでも感心ですね。」

「どうしてさ。」

「妻籠の方でもわたしは君の机の上に載ってる覚え帳を見て来ました。君にはそういう綿密なところがある。」

どうして半蔵がこんなことを言い出したかというに、本陣庄屋問屋の仕事は将来に彼を待ち受けていたからで。二人は十八歳のころから、すでにその見習いを命ぜられていて、福島の役所への出張といい、諸大名の送り迎えといい、二人が少年時代から受けて来た薫陶はすべてその準備のためでないものはなかった。半蔵がまだ親の名跡を継がないのに比べると、寿平次の方はすでに青年の庄屋であるの違いだ。

半蔵は嘆息して、

「吾家の阿爺の心持ちはわたしによくわかる。家を放擲してまで学問に没頭するようなものよりも、よい本陣の跡継ぎを出したいというのが、あの人の本意なんでさ。阿爺ももう年を取っていますからね。」