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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

「それがです、自分でも物になるかと思い初めたのは、横須賀の旅からです。あの旅が歌を引き出したんですね。詠んで見たら、自分にも詠める。」

「ほら、君が横須賀の旅から贈ってくだすったのがあるじゃありませんか。」

「でも、香蔵さん、吾家の阿爺が俳諧を楽しむのと、わたしが和歌を詠んで見たいと思うのとでは、だいぶその心持ちに相違があるんです。わたしはやはり、本居先生の歌にもとづいて、いくらかでも古の人の素直な心に帰って行くために、詩を詠むと考えたいんです。それほど今の時世に生まれたものは、自然なものを失っていると思うんですが、どうでしょう。」

半蔵らはすべてこの調子で踏み出して行こうとした。あの本居宣長ののこした教えを祖述するばかりでなく、それを極端にまで持って行って、実行への道をあけたところに、日ごろ半蔵らが畏敬する平田篤胤の不屈な気魄がある。半蔵らに言わせると、鈴の屋の翁にはなんと言っても天明寛政年代の人の寛濶さがある。そこへ行くと、気吹の舎大人は狭い人かもしれないが、しかしその迫りに迫って行った追求心が彼らの時代の人の心に近い。そこが平田派の学問の世に誤解されやすいところで、篤胤大人の上に及んだ幕府の迫害もはなはだしかった。