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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
」
この九太夫は、平素自分から、「馬籠の九太夫、贄川の権太夫」と言って、太夫を名のるものは木曾十一宿に二人しかないというほどの太夫自慢だ。それに本来なら、吉左衛門の家が今度の和宮様のお小休み所にあてられるところだが、それが普請中とあって、問屋分担の九太夫の家に振り向けられたというだけでも鼻息が荒い。
思わず寿平次は半蔵の声を聞いて、神葬祭の一条が平田篤胤没後の諸門人から出た改革意見であることを知った。彼は会所の周囲を往ったり来たりして、そこを立ち去りかねていた。
その晩、お民は裏の土蔵の方で、夫の帰りを待っていた。山家にはめずらしく蒸し暑い晩で、両親が寝泊まりする味噌納屋の二階の方でもまだ雨戸が明いていた。
「あなた、大変おそかったじゃありませんか。」
と言いながら、お民は会所の方からぶらりと戻って来た夫を土蔵の入り口のところに迎えた。火災後の仮住居で、二人ある子供のうち姉のお粂は納屋の二階の方へ寝に行き、弟の宗太だけがそこによく眠っている。子供の枕もとには昔風な行燈なぞも置いてある。お民は用意して待っていた山家風なネブ茶に湯をついだ。それを夫にすすめた。