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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

」

これも篤志家の一人の声だった。

翌日は中津川お泊まりの日取りである。その日は雨になって、夜中からひどく降り出した。しかしその大雨の中でも、もはや道固めの尾州の家中が続々馬籠へ繰り込んで来るようになったので、吉左衛門も半蔵も全く一晩じゅう眠らなかった。

いよいよ馬籠御通行という日が来た。本陣の仮住居の方では、おまんが孫のそばに目をさますと、半蔵も父も徹夜でいそがしがって、ほとんど家へは寄りつかない。嫁のお民は、と見ると、この人は肩で息をして、若い母らしい前垂れなぞにもはや重そうなからだを隠そうとしている。

おまんは佐吉を呼んで、孫のお粂をおぶわせ、村はずれに宮様をお迎えさせることにした。そこへ来た新宅のお喜佐(おまんの実の娘、半蔵の異母妹)には宗太をつけて、これも家の下女たちと一緒にやることにした。

「粂さま、おいで。」と佐吉はお粂を背中にのせて、その顔をおまんに見せながら、「これで粂さまも、きょうあったことを――ずっと大きくなるまで――覚えていさっせるずらか。」

「なにしろ、六つじゃねえ。」

「覚えてはいさっせまいか。」

「そうばかりでもないよ。」とお喜佐は二人の話を引き取って言った。