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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

野菜を貯えたり、赤蕪を漬けたりすることは、半蔵の家でも年中行事の一つのようになっていた。その時、半蔵は妻を見送ったあとで、彼女のそこに残して置いて行った言葉を考えて見た。深い窓にのみこもり暮らしているような継母のおまんが、しかも「わたしはもうお婆さんだ」を口癖にしている五十四歳の婦人で、いつのまに彼の志を看破ったろうとも考えて見た。その心持ちから、彼は一層あの賢い継母を畏れた。

数日の後、半蔵は江戸の道中奉行所から来た通知を受け取って見て、一橋慶喜の上京がにわかに東海道経由となったことを知った。道普請まで命ぜられた木曾路の通行は何かの都合で模様替えになった。その冬の布告によると、将軍上洛の導従が東海道を通行するものが多いから、十二月九日以後は旅人は皆東山道を通行せよとある。

「半蔵さま、来年は街道もごたごたしますぞ。」

「さあ、おれもその覚悟だ。」

清助と半蔵とはこんな言葉をかわした。

年も暮れて行った。明ければ文久三年だ。その時になって見ると、東へ、東へと向かっていた多くの人の足は、全く反対な方角に向かうようになった。時局の中心はもはや江戸を去って、京都に移りつつあるやに見えて来た。