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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
これには人民一同狼狽してしまった。
過ぐる月日の間、半蔵はあちこちの村々から腰縄付きで引き立てられて行く不幸な百姓どもを見て暮らした。人民入るべからずの官有林にはいって、盗伐の厳禁を犯すものが続出した。これをその筋の人に言わせたら、規則の何たるをわきまえない無知と魯鈍とから、村民自ら犯したことであって、さらに寛恕すべきでないとされたであろう。
それにつけても、まだ半蔵には忘れることのできないずっと年若な時分の一つの記憶がある。馬籠村じゅうのものが吟味のかどで、かつて福島から来た役人に調べられたことがある。それは彼の本陣の家の門内で行なわれた。広い玄関の上段には、役人の年寄、用人、書役などが居並び、式台のそばには足軽が四人も控えた。村じゅうのものがそこへ呼び出された。六十一人もの村民が腰縄手錠で宿役人へ預けられることになったのも、その時だ。七十歳以上の老年は手錠を免ぜられ、すでに死亡したものは遺族の「お叱り」ということにとどめられたが、それも特別の憐憫をもってと言われたのも、またその時だ。そのころの半蔵はまだ十八歳の若さで、庭のすみの梨の木のかげに隠れながらのぞき見をしていたために、父吉左衛門からしかられたことがある。