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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

これには各宗の僧籍に身を置くものはもとより、全国何百万からの寺院に寄宿するものまで、いずれも皆強い衝動を受けた。この趨勢に鑑み、中年から皇国古典の道を聞いて、大いに松雲も省みるところがあった。和尚がことに心をひかれたのは、人皇三十一代用明天皇第二の皇子、すなわち厩戸皇子ののこした言葉と言い伝えられるものであった。この国未曾有の仏法を興隆した聖徳太子とは、厩戸皇子の諡号にほかならない。その言葉に、神道はわが国の根本である、儒仏はその枝葉である、根本昌なる時は枝葉も従って繁茂する、故に根本をゆるかせにしてはならないぞよとある。これだ。この根本に帰入するのが、いくらかでも仏法の守られる秘訣だと松雲は考えた。ところがこれには反対があって、仏徒が神道を基とするのは狭い偏した説だとの意見が出た。その声は隣村同宗の僧侶仲間からも聞こえ、隣国美濃にある寺々からも聞こえて来た。そしてしきりにその片手落ちを攻撃する手紙が松雲のもとへ舞い込んで来たのは十通や十三、四通にとどまらない。そのたびに松雲は自己の立ち場を弁解する意見書を作って置いて、それを同宗の人々に示した。