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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

彼は右を見、左を見して、新規にかかった石造りの目鏡橋を渡った。筋違見附ももうない。その辺は広小路に変わって、柳原の土手につづく青々とした柳の色が往時を語り顔に彼の目に映った。この彼が落ち着く先は例の両国の十一屋でもなかった。両国広小路は変わらずにあっても、十一屋はなかった。そこでは彼の懇意にした隠居も亡くなったあとで、年のちがったかみさんは旅人宿を畳み、浅草の方に甲子飯の小料理屋を出しているとのことである。足のついでに、かねて世話になった多吉夫婦の住む本所相生町の家まで訪ねて行って見た。そこの家族はまた、浅草左衛門町の方へ引き移っている。そうこうするうちに日暮れに近かったので、浪花講の看板を出した旅人宿を両国に見つけ、ひとまず彼はそこに草鞋の紐を解いた。

東京はまず無事。その考えに半蔵はやや心を安んじて、翌日はとりあえず、京都以来の平田鉄胤老先生をその隠棲に訪ねた。彼が亡き延胤若先生の弔みを言い入れると、師もひどく力を落としていた。その日は尾州藩出身の田中不二麿を文部省に訪ねることなぞの用事を済まし、上京三日目の午後にようやく彼は多吉夫婦が新しい住居を左衛門橋の近くに見つけることができた。