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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
その日かぎり、半蔵は再び役所の門を潜るまい、そこに集まる同僚の人たちをも見まいと思うほどのいらいらした心持ちで、鎌倉河岸のところに黄ばみ落ちている柳の葉を踏みながら、大股に歩いて行った。もともと今度の上京を思い立って国を出た時から、都会での流浪生活を覚悟して来た彼である。半年の奉職はまことに短かったとは言え、とにもかくにも彼は神祇局の後身ともいうべき教部省に身を置いて見て、平田一派の諸先輩がそこに残した仕事のあとを見ただけにも満足しようとした。例の浅草左衛門町にある多吉の家をさして帰って行くと、上京以来のことが彼の胸に浮かんで来た。ふと、ある町の角で、彼は足をとめて、ホッと深いため息をついた。その路は半年ばかり彼が役所へ往復した路である。柄にもない教部省御雇いとしての位置なぞについたのは、そもそも自分のあやまりであったか、そんな考えがしきりに彼の胸を往ったり来たりした。
「これはおれの来べき路ではなかったのかしらん。」
そう考えて、また彼は歩き出した。
仮の寓居と定めている多吉の家に近づけば近づくほど、名のつけようのない寂しさが彼の胸にわいた。彼は泣いていいか笑っていいかわからないような心持ちで、教部省の門を出て来たのである。