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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

これには半蔵も返事にこまった。いろいろにお粂を言いなだめた。娘も妙なことを言うと彼は思ったが、あれもこれもと昼夜心を砕いた山林の問題が胸に繰り返されていて、お粂の方で言い出したことはあまり気にも留めなかった。

三

お民は妻籠の生家の話を持って、和助やお徳を連れながらそこへ帰って来た。

「お民、寿平次さんはなんと言っていたい。」

「木曾山のことですか。兄さんはなんですとさ、支庁のお役人がかわりでもしないうちはまずだめですとさ。」

「へえ、寿平次さんはそんなことを言っていたかい。」

半蔵夫婦はこんな言葉をかわしたぎり、ゆっくり話し合う時も持たない。妻籠土産の風呂敷包みが解かれ、これは宗太に、これは森夫にと、留守居していた子供たちをよろこばせるような物が取り出されると、一時家じゅうのものは妻籠の方のうわさで持ち切る。妻籠のおばあさんからお粂にと言って、お民は紙に包んだ美しい染め糸なぞを娘の前にも取り出す。お徳の背中からおろされた四男の和助はその皆の間をはい回った。

半蔵はすでに村の髪結い直次を呼び寄せ、伸びた髭まで剃らせて妻を待ち受けているところであった。