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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

たとい教部省あたりの同僚から邪魔にされて、よろしくあんな男は敬して遠ざけろぐらいのことは言われるにしても、それを意にかける彼ではもとよりない。ただ、そんな山間に行って身を埋めるか、埋めないかが彼には先決の問題で、容易に決心がつきかねていた。

その時になると、多くの国学者はみな進むに難い時勢に際会した。半蔵が同門の諸先輩ですら、ややもすれば激しい潮流のために押し流されそうに見えて来た。いったい、幕末から御一新のころにかけて、あれほどの新機運をよび起こしたというのも、その一つは大義名分の声の高まったことであり、その声は水戸藩にも尾州藩にも京都儒者の間にも起こって来た修史の事業に根ざしたことであった。そういう中で、最も古いところに着眼して、しかも最も新しい路をあとから来るものに教えたのは国学者仲間の先達であった。あの賀茂真淵あたりまでは、まだそれでもおもに万葉を探ることであった。その遺志をついだ本居宣長が終生の事業として古事記を探るようになって、はじめて古代の全き貌を明るみへ持ち出すことができた。そこから、一つの精神が生まれた。この精神は多くの夢想の人の胸に宿った。