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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
古二朱金、保字小判なぞの当時に残存した良質の古い金貨はあの時に地を払ってしまったことを覚えている。もしそれと同じようなことが東西文物の上に起こって来て、自分らの持つ古い金貨が流れ出して行き、そのかわりにはいって来る新しい文明開化が案外な洋銀のようなものであるとしたら、それこそ大変な話だと思われて来た。
月の中旬が来るころには、いよいよ半蔵が水無神社宮司の拝命もおもてむきの沙汰となった。もはや彼の東京にとどまるのも数日を余すのみとなった。
朝が来た。例のように半蔵が薄暗い空気の中で水垢離を執り、からだを浄め終わるころは、まだ多吉方の下女も起き出さないで、井戸ばたに近い勝手口の戸障子も閉まっていた。そこいらには、町中ながらに鶏の鳴き声が朝霧の中に聞こえていた。
その日、半蔵は帝の行幸のあることを聞き、神田橋まで行けばその御道筋に出られることを知り、せめて都を去る前に御通輦を拝して行こうとしていた。彼はそのことを多吉夫婦に告げ、朝の食事をすますとすぐ羽織袴に改めて、茅場町の店へ勤めに通う亭主より一歩早く宿を出た。神田川について、朝じめりのした道路の土を踏んで行くと、次第に町々の空も晴れて、なんとなく改まった心持ちが彼の胸にわいた。