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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
そのからだにも似合わないような傷みやすい小さなたましいが彼女の内部には宿っていた。お粂はそういう子だ。父祖伝来の問屋役廃止以来、本陣役廃止、庄屋役廃止と、あの三役の廃止がしきりに青山の家へ襲って来る時を迎えて見ると、女一生の大事ともいうべき親のさだめた許嫁までが消えてゆくのを見た彼女は、年取った祖母たちのように平気でこの破壊の中にすわってはいられなかった子だ。伊那の南殿村、稲葉の家との今度の縁談がおまんの世話であるだけに、その祖母に対しても、お粂は一言口出ししたこともない。半蔵らの目に映るお粂はただただひとり物思いに沈んでいる娘である。
ふと、半蔵は歩きながら思い出したように、店座敷の方へ通う廊下の板を蹴った。机の上にも、床の間にも、古書類が積み重ねてある自分の部屋へ行ってから、また彼は山林の問題を考えた。
「あれはああと、これはこうと。」
半蔵のひとり言だ。
隣家からは陰ながら今度の嘆願書提出のことを心配して訪ねて来る伏見屋の伊之助があり、妻籠までお民が相談に行った話の様子も聞きたくて、その日の午後のうちには半蔵も馬籠を立てそうもなかった。伊之助は福島支庁の主任のやり口がどうも腑に落ちないと言って、いろいろな質問を半蔵に出して見せた。