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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

青山君も行って、さっぱりとしていらっしゃい。わたしは一服やっていますからね。」と恭順も言葉を添える。

半蔵はまだ借り着のままだ。彼は着物を改めに自分の柳行李の置いてある二階の方へ行こうとしたが、お隅がそれをおしとどめて、そのままからだを洗いきよめて来てもらいたいと言うので、彼も言われるままにした。

「どれ、御一緒に行って、一ぱいはいって来ようか――お話はあとで伺うとして。」

そういう多吉は先に立って、お隅から受け取った手ぬぐいを肩にかけ、格子戸口を出ようとした。

「お隅、番傘を出してくんな。ぽつぽつ降って来たぞ。」

多吉夫婦はその調子だ。半蔵も亭主と同じように傘をひろげ、二人そろって、見るもの聞くもの彼には身にしみるような町の銭湯への道を踏んだ。

多吉が住む町のあたりは古くからある数軒の石屋で知られている。家の前は石切河岸と呼び来たったところで、左衛門橋の通り一つへだてて鞍地河岸につづき、柳原の土手と向かい合った位置にある。砂利、土砂、海土などを扱う店の側について細い路地をぬければ、神田川のすぐそばへも出られる。こんな倉庫と物揚げ場との多いごちゃごちゃした界隈ではあるが、旧両国広小路辺へもそう遠くなく、割合に閑静で、しかも町の響きも聞こえて来るような土地柄は、多吉の性に適すると言っているところだ。