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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

お民は和助をそばに置いて、黙って食った。半蔵は継母の顔をながめ、姉娘のお粂が弟たちと並んでいる顔をながめ、それからお民の顔をながめて、これも黙って食った。その晩、彼は店座敷の方にいて、翌朝王滝へ出かけるしたくなぞしたが、ろくろく口もきかないでいるお民をどうすることもできなかった。実に些細なことが人を傷ませる。彼に言わせると、享保以前までの彼の先祖はみな無給で庄屋を勤めて来たくらいで、村の肝煎とも百姓の親方とも呼ばれたものである。その家に生まれた甲斐には、せめてこういう時の役に立ちたいものだとは、日ごろの彼の願いであって、あえておろそかにするつもりで妻子を顧みないではないのにと、彼はこれまで用意した嘆願書を筑摩県本庁の方へ持ち出しうる日のことを考えて、わずかに心を慰めようとした。木曾谷中に留山と明山との区別もなかった時分の木租のことを万一本庁の官吏から尋ねられた場合にはと、自分で自分に問うて見る。それに答えることは、そう困難でもなかった。ずっと以前の山地に檜榑二十六万八千余挺、土居四千三百余駄の木租を課せられた昔もあるが、しかもその木租のおびただしい運搬川出し等の費用として、人民の宅地その他の課税は差し引かれたも同様に給与せられたと答えることができた。