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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
「お客さまだぞい。馬籠の本陣からおいでたげな。」
「おゝ、青山さんか。これはおめずらしい。」
王滝の戸長遠山五平は禰宜の家からそう遠くない住居の方で、この半蔵が自分の村に到着するのを今日か明日かと心待ちに待ちうけているところであった。山林事件の嘆願書提出については、五平は最初から半蔵の協力者で、谷中総代十五名の中でも贄川、藪原二か村の戸長を語らい合わせ、半蔵と共に名古屋県時代の福島出張所へも訴え出た仲間である。今度二度目の嘆願がこれまでにしたくの整ったというのも、上松から奥筋の方を受け持った五平の奔走の力によることが多かった。それもいわれのないことではない。この人は先祖代々御嶽の山麓に住み、王滝川のほとりに散在するあちこちの山村から御嶽裏山へかけての地方の世話を一手に引き受けて、木曾山の大部分を失いかけた人民の苦痛を最も直接に感ずるものの一人もこの旧い庄屋だからであった。王滝は馬籠あたりのように木曾街道に添う位置にないから、五平の家も本陣問屋は兼ねず、したがって諸街道の交通輸送の事業には参加しなかったが、人民と土地とのことを扱う庄屋としては尾州代官の山村氏から絶えず気兼ねをされて来たほどの旧い家柄でもある。