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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
かねてこの縁談の仲にはいってくれた人が伊那の谷から見えて、吉辰良日のことにつき前もって相談のあったおりに、青山の家としては来たる九月のうちを選んだのもそのためであった。さて、その日取りも次第に近づいて見ると、三十三か村の人民総代として半蔵らが寝食も忘れるばかりに周旋奔走した山林事件は意外にもつれた形のものとなって行った。
もとより、福島支庁から言い渡された半蔵の戸長免職はきびしい督責を意味する。彼が旧庄屋(戸長はその改称)としての生涯もその時を終わりとする。彼も御一新の成就ということを心がけて、せめてこういう時の役に立ちたいと願ったばっかりに、その職を失わねばならなかった。親代々から一村の長として、百姓どもへ伝達の事件をはじめ、平生種々な村方の世話駈引等を励んで来たその役目もすでに過去のものとなった。今は学事掛りとしての仕事だけが彼の手に残った。彼の継母や妻にとっても、これは思いがけない山林事件の結果である。娘お粂が結婚の日取りの近づいて来たのは、この青山一家に旧い背景の消えて行く際だ。
仲人参上の節は供一人、右へ御料理がましいことは御無用に願いたし。