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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

二

土蔵の建物と裏二階の隠居所とは井戸の方へ通う細道一つへだてて、目と鼻の間にある。お民はその足で裏二階の方に姑を見に行った。娘を伊那へ送り出すまで、何かにつけてお民が相談相手と頼んでいるのは、おまんのほかになかったからで。

「お母さん。」

と声をかけると、ちょうどおまんは小用でも達しに立って行った時と見えて、日ごろ姑がかわいがっている毛並みの白い猫だけが麻の座蒲団の上に背を円くして、うずくまっていた。二間を仕切る二階の部屋の襖も取りはずしてあるころで、すべて吉左衛門が隠居時代の形見らしく、そっくり形も崩さずに住みなしてある。そこいらには、針仕事の好きな姑が孫娘のために縫いかけた長襦袢のきれなぞも取りちらしてあって、そこにもお粂が結婚の日取りの近づいたことを語っている。古い針箱のそばによせて、小さな味醂の瓶の片づけずに置いてあるのもお民をほほえませた。姑のような年取った女の飲む甘いお酒が押入れの中に隠してあることをお民も知っているからであった。

そのうちに、おまんはお民のいるところへ戻って来て、

「お民か。お前はちょうどよいところへ来てくれた。